「若、どこがお加減が悪いのですかな?」
「……そうであるか?」
「ここ2,3日ろくに召し上がっていないではありませんか」
「紅茶と軽いものならば食べている」
「栄養が偏りますぞ?」
若君は曖昧に答えて、何とかごまかそうとする。
ーあんな夢をみたなどと言える訳がない。
ところが……。
「大方悪い夢をご覧になったのでしょう」
図星をつかれて、若君はばつが悪そうに目を泳がせる。
「一体何年あなたの教父をしているとお思いですか?」
顎をつい、と持ち上げて目を細めて人の悪そうな笑みを作る。
ああ、一番見たくない人間のことを思い出させる!
若君は気付かれない様に小さく眉をひそめ、視線を下に落とす。
「厨房には申し付けておきますから、今夜はお休みの前に薬湯を召し上がって頂きますぞ」
少し間を置いて、お返事はどうなさいましたか?とマルティンは言葉を締めくくる。
しかめつらしく、行儀の悪い学童を叱り付ける教師の趣だ。
だが、眼には気遣いがあふれている。
口調が厳しいのに、なんと不釣合いなことだろう。
若君は急におかしくなり、吹き出してしまった。
真面目に聞いていただけますか、とたしなめるマルティンにも、もう口調の厳しさは吹き飛んでいる。
生まれつきお世辞にも血色が良いとは言えない若君だが、声を立てて笑ったときだけ、ほんのりと赤みが差すのをマルティンは良く心得ていた。
外の人間に対し、常に「紳士の高慢」で身を固めている若者が、鎧を取り払ったのを見ながら、同じ学府ですごした頃の若君の父の姿も重ね合わせて。
領主の一門を血を吸い肉を食らう化け物と忌み嫌う村の連中を、この時だけは厭わしく思っていた。
2009年07月06日
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